◇ひとりぼっちのフィールドワーク◇
-その4- 鶴巻 繁

◇−段違いの眉−◇

 後藤さんが転んで右手の指2本を骨折したという。指を頼りに生きている者に とって、これは大変なダメージだ。にもかかわらず、骨折の直後から青視協の運 営に努めておられる様子には頭が下がる。

 私も一度骨折したことがある。もう随分昔のことだが、鎌倉で側溝に落ちて右 足の親指の骨を折った。一人だったので、電車を乗り継いで東京清瀬のアパート まで帰り着くのが大変だった。その後1週間ほどは勤め先に泊り込んで仕事をし た。実はこの一カ月ほど前、鶴が岡八幡宮でおみくじを引いて、大凶が出た。同 行した友だちが、「おみくじにはちゃんと大凶ってあるのね」と感心していた。

 日々怪我が絶えない。手足や顔まで、体中に生傷が絶えたことがない。私の前 歯の1本は刺し歯だ。夜、路上に停めてあったトラックの荷台にぶつかって歯が 欠けてしまった。トラックの荷台は大敵で、下が空いているため、白杖で触れる ことができず、ぶつかると顔や頭にひどい怪我をする。

 目が見えていれば、顔に怪我をすることはそうないだろうが、見えていないと それがしばしばある。庭の植木の世話をしていて、木の葉で眼球を傷つけてしま ったこともある。路上の電柱や、駅のホームの鉄柱にぶつかって額を切って出血 したことも一度ならずある。段違いの眉イラスト

 2年ほど前のある日曜日、自分の部屋の掃除をしていて、部屋の中央に置いた スピーカーの角に左の眉をぶつけた。痛みはそれほどでもなかったので、軟膏を 塗ってそのまま掃除を続けた。
 1階に下りると、妻の「あら、どうしたのそれ?」と驚いた声。驚きつつ、吹き 出している。「お父さん、眉が段違いになってるわよ」と言うのだ。私も、へた くそな福笑いのように、段違いになった眉を付けた自分の顔を想像して笑ってし まった。

 近くの労災病院の救急外来で縫合してもらった。子供が何度もお世話になって いる救急外来だ。処置室では、私が横たわっているベッドのすぐ隣で、「××歳 の男性で、大量に胃から出血していて止まりません」と、ドクターが電話で話し ていた。これは命にかかわる話だ。

 人生に怪我や病気はつきもので、招かずとも向こうからやってくる。自分の不 注意で怪我をすることもある。しかし、違法駐車や路上の電柱、蓋のしていない 側溝などは、人の心がけでどうにかなるものだと思う。「バリアフリーのまちづ くり」は、まだまだ道半ばだ。

この項終わりです。
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