現在の位置:トップ > 目次 > ウッチャンの落書きストーリー第17回

第12話

この物語の主人公の名は、ウッチャン!中途失明の視覚障害者である。
現在は、世間と言う大学で、生活社会学を学ぶ学生なのだ。

第十ニ話 寅さんとさくらさんに出会った!

寅さんの帽子とカバンのイラスト

久しぶりに、厚木に出掛けた帰り、小田急線海老名駅で下車して、改札口へとホームを数歩、歩いたところで、おじさんに声をかけられた。
「誘導してあげる」の言葉に、礼を言うウッチャン。
すると、ウッチャンの左横に立ち、「つかまれ」と言う。
(誘導の仕方知ってんだ)と、思いながら、腕につかまり改札へ向かう。

「これからどこへ?」の、おじさんの問いかけに、「横浜へ」と、応えるウッチャン。
「自分も同じ」と、返事が帰ってきた。
(ラッキー)と、思いながら、ウッチャンか、ワンパターンの質問をおじさんにした。
ウッチャン「失礼ですが、どちらで誘導の仕方を、覚えられたのですか?」
おじさん「エッ、やり方なんか知らないよ。誘導すんのは、今日がはじめてだよ」
これには、愕くウッチャン、思わず、「ホントデスカ」と声を上げてしまったのです。

そして、(この手のおじさんは、おだてるのが一番)と思い、「あんまりにもジョーズなんで、初めてだとは信じられません」と、ウッチャン。
これに、「そうかぁ」と、おじさん。
言葉をつづけるウッチャン、「イヤホントに、安心して歩けます。
ましてや、偶然とはいえ、方向も同じ、本当に助かりました、一人で歩いていたら、ようやく相鉄線の改札に着いたぐらいです。
それがホームを歩けてる。考えていた時間より、早く横浜に着けます。
声をかけてもらえて、よかったです。ありがとうございます」
と、感謝の気持ちには、ウソはないが、おもいきり持ち上げるウッチャン。
しかし、この後のおじさんのひと言に愕然となる。
おじさん「イヤァ、子供が、救急車で病院に運ばれたってんでその病院へ行くとこなんだよ」
もう大変、心の中は、みだれとあせりと反省が渦巻く。
(どうしよう、たいへんな人に、甘えてしまった。アーア調子のいいこと言ったりしてマズイナァ)
気持があせり、うまく言葉がでないウッチャン。
「あのぅ、すいません・・・」と、口ごもってしまう。
おじさん「だいじょうぶだよ、気にするな」
うっちゃん「でも・・・」と、またまた言葉がでない。
おじさん「気にスンなって、横浜まで行くのは同じなんだから」と苦笑する。
電車に乗せてもらい、座席に座る。
真向かいに座るおじさん。となりには、奥さんらしき女性が座った。
何やら、会話を始める二人。
(きっと急いでいるんだ。横浜についたら、ウソをついてでも誘導を断らなきゃ)と思うウッチャンだった。
ところが、横浜に到着。
「ニイチャン、降りるよ。ツカマッテ」のおじさんの声に反応してしまい腕につかまってしまった。
(なんでこうなるかなぁ)と、自分にハラが立つウッチャン。
ホームを歩きながら、(なんとかしなきゃ)とウッチャン、
「自分は、一番前の方まで行かなくてはなりません。ここは慣れてますから、一人でもだいじょうぶです。ですから・・」と、言葉をつづけようとすると、
おじさん「わしらも、一番前まで行くから気にスンな」と返事。
(あーあ、なんてこった連れてってくれと、思われたみたいだ)とあせるウッチャン。
(どうにかしないと)と考えながら歩く。改札を出ると、
「ここからどこへ?」のおじさんの問いかけに、「京浜急行」と言ってしまう。
あわてるウッチャン、「いや、友だちが来ますので、ここで・・・」と、言い直すが、もう遅い。
おじさんに、引っ張られるように誘導されてしまう。
そんな時、「JRはどっちだ?」のおじさんの声に、
「自分とは、まったく方向が違います。こんなとこまで誘導してもらえて感謝してます。心配で急いでいるにもかかわらず、声をかけていただけて、何とお礼を言っていいのか・・・。後は、だいじょうぶです。病院へ急いであげてください」と、頭を下げて話すウッチャン。
それに、「ハハハ、ケガして運ばれたわけでもないんで、本人は、病院にいるんだし心配はないんだよ。
それでも、方向が違うしな、ここからは気を付けてな」とおじさんの言葉。

その返事に、ホットしながら、改めて頭を下げ、礼を言うウッチャン。

一人になっての帰りの車内。
自身が、少し前に体験した出会い。
ウソのようなホントの話、信じられないのは(あんなおじさんがいるのか)ということ。
重い軽いは別として、家族が救急車で運ばれたと聞いて、病院へ向かっている時に、視覚障害者を見かけたからと、親切で声をかけることができるのか。
おれには、ムリだ、だいじょうぶかなと思えても、声をかける。
やさしさも余裕もないだろう。
あのおじさんは、どうしてできたのかと考えるウッチャン。
やさしいとか、なんとかのレベルじゃない。あのおじさんはスゴイんだ。
何がスゴイのか、考える必要はない。
おれは、スゴイおじさんに、出会って助けてもらったんだ。
そう思えばいい。
そんな結論に、達したウッチャンだった。

だが、オドロキの出会いは、これだけではなかったのである。
さて、スゴーイおじさんと別れ、京浜急行の車内。
アレコレ思いをめぐらせている内に、久里浜駅に到着。
ホームに降り立つと、だれも声をかけてこない。
いつもなら、妹が来ているのだが、(アリャ、今日はおれの方が、先についたのか)と思いながら歩き出す。
そこへ、「改札へ行かれるのですか?」と、おねぇちゃんの声。
立ち止まり、「ハイ」と、応えるウッチャン。
「では、改札までごいっしょしましょう」と、言ってくれたのである。
(オー!ラッキー、今日はいい一日だなぁ)と思いながら、腕につかまらせてほしいと頼んで、誘導してもらう。
改札の前までくると、「アッ、すいません、ありがとうございます」の妹の声が、前方から聞こえてきた。
改札を通りながら、おねぇちゃんに、礼を言うウッチャン。
通りぬけると、後から来るおねえちゃんに、あらためて礼を言うつもりで待っていると、でてこないおねぇちゃん。
妹は大きな声で、「ありがとうございました」と叫んでいる。
そして、「おにいちゃん、さっきの人、ホームへ戻って行ったよ」と、妹のひと言。
「エッ、なんで、ここで降りた人じゃないのか!」とおどろくウッチャン
「そうだよきっと、おにいちゃんを、ここまで連れてくるために、電車を降りたか、来た電車に乗るのをやめたか、どっちかだよ」と妹。
「マイッタナァ、ここで降りた人だとばかり・・・」とウッチャン。
「ワタシもそう。改札でたら、もう一度お礼を言うつもりでいたの。そしたら、回れ右して戻っていくんだもん、ビックリしちゃった。あぁいう人いるんだねぇ。やさしいっていうより、スゴイって感じがする」の言葉に、
「かんな、さっきの人だけじゃないぞ、もう一人スゴイ人に、それもチョット前に、会ったんだよ」とウッチャン。
帰りの車の中、おじさんの話をすると、感心しきりの妹。
そんな妹に、コンビニに寄ってほしいと頼んだ。
もちろん、目的はビールだ。
買ってきてもらったビールをあけ「海老名で会ったおじさんと、さっきのおねぇちゃんに、感謝をこめて、カンパーイ!」と言ってビールを飲み干すウッチャン。
妹の、「どう、オイシイ!いつもと違うでしょ」の問いかけに
「アー!違うね、サイコーにウマイ!」と笑いながら応えるウッチャンだった。
映画大好きなウッチャン。
海老名で会ったおじさんは、寅さんのような人。
久里浜で会ったオネェチャンは、さくらさんのような人。
そう、寅さんと妹のさくらさんに、出会ったような気持になったのです。

男が、一歩、外に出ると、8人の敵がいる。
なんて、今は死語になってしまった言葉がある。
障害者に、置き換えて考えると、障害者の敵は8人ですむわけない。ましてや、敵となるものは人間だけではない。
数知れず敵はいる。
そんな敵から、身を守らなければいけないは、戦わなければならないは、もうたいへんなんです。
それを、すべて一人で、そんなムリなことしなくてもだいじょうぶ。
信じれば居るんです。
信じれば現れるんです。
心強く、頼りになる「心やさしいスゴーイひと!」が。
悪を倒す強いヒーローよりも、(やさしさ)と言う、必殺技を持った人達が!

ウッチャン久々のカンゲキの出会いでした。
以上。

第17回終わり