洋の夏休み
先島 洋:著
著者の一言:

 先頃、あるMLに、治療院を開業している視覚障害者の人たちが苦境に立っているという投稿がありました。 健常者が三療(あんま・マッサージ・指圧、鍼、灸)業界に進出して、視覚障害者の業者を圧迫しているという 問題は昔からあった話ですが、この同業者のみでなく、免許や開業の認可を全く必要としない、整体、 カイロプラクティック、その他の、いわゆる民間療法業者が巷に溢れ、三療業者を圧迫していることが、 いま問題になっています。そのあおりを受けて、やむなく廃業に追い込まれた三療業者も多々あります。

  実は私も三療の免許を持っています。昭和52年(1977年)に国立東京視力障害 センター(現在の国立リハビリテーションセンター)に入学、3年間勉強して三 療の免許を取りました。

 その東京視力の2年生から3年生にかけて、週末や連休、夏休みに増富温泉に 通いました。増富温泉は、代々、先輩から引き継がれてきた実習兼アルバイト先 の一つでした。

 新宿駅から急行アルプスに乗り、中央線の韮崎駅で下りて、バスで1時間ほど 山道を上った所にある、ひなびた温泉郷です。

 この小説『洋の夏休み』は、その頃の私の経験をもとに書いたもので、書き上 げてから長い間、私の机の引出しに眠っていたものです。今回、先のMLの投稿 を見て、私たち目の不自由な者が、どのような思いをもって三療の技術を習得し、 業を営んでいるか、その一端を世の皆さんに理解していただければと思い、ここ に掲載していただいた次第です。

 三療が好きの嫌いのというレベルではなく、三療は視覚障害者に適した仕事の 一つだという国の政策に導かれる形で、私たちは盲学校や全国各地の更生施設等 で勉強し、免許を取得して、開業、就職してきたわけです。この小説は、そうい う私たちが、どのような思いで三療を学び、生活の自立を図っていこうとしたか を、洋という主人公に託して描いたものです。

終わり
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